大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

劇画(78) 上村一夫 2 「凍鶴」

そろそろ私が最大級に敬愛する、そして熱心に著作を集めてきた上村一夫先生の作品群も少しずつ紹介していきましょう。

上村一夫先生といえば芸術性の高い美しく叙情的な絵と内容の名作を数多く上梓してきた"昭和の絵師"で、45歳の若さで夭逝した天才であるわけですが…

レアな単行本が多い中から、まずは手に入りやすい所を選んで「凍鶴」(小学館刊)。
KAMIMURA-itezuru-sohsho.jpg
女性が主人公の作品ですが、上村先生得意の美しい女の絵ではなく鶴の写真がジャケですね。

ビッグコミックに1974年から1980年までという長い期間、断続的に掲載されたもので、1992年の上村先生が亡くなった直後に初めて小学館叢書で単行本化されたのですが、雑誌掲載全16回のうち14回分しか収録されていないのが残念です。
こちらは、同内容で1996年に刊行された文庫版。
KAMIMURA-itezuru-bunko.jpg

主人公はつると呼ばれる少女です。
30円(米一俵の値段)で"松乃屋"に売られてきて、芸者見習いで使い走りの"仕込っ子"として働きながら、一人前の芸者を目指す…つまり舞台は花柳界。
多くの人には全く馴染みのない、そして既に失われた華やかな世界についての勉強にもなりますよ。
華やか、とは言っても外からそう見えるだけで本当はその陰に暗さがあって、上村一夫先生が描くのは当然ながらその暗い部分が中心になります。

時代はスタートが昭和初期あたりで、満州事変等の時代の流れと平行して進んで行きます。

さて、つるが何故つると呼ばれているのか。
それは売られる前、寒い故郷で子守をしていた時から凍えた足を温もらすために、いつも鶴のように片足で立っていたから。花柳界へ売られてきてからもその癖は直らなかった、と。
そのつるの貧しい故郷というのは、どうやら新潟らしいです。
糸魚川から来た若者に、『わたしもそこから近い所で生まれ育ったんです。』と話すシーンがあるので。

最初の仕込っ子時代は、第1話目からして届け物に行った先で寝たきりになっている男の子に頼まれて裸を見せてあげて、喉に詰まった痰を全裸で吸い出してあげる…という初めての接吻から、最後のオチまでショッキングなのエピソードで幕を開けます。

それから身請けする旦那との初床の前に逃げ出して、処女を捨ててきちゃった美人芸者・花千代の話、格式の高い深川芸者・桃千代が松乃屋で働きたいと申し出てきたその目的と悲劇があり、それからつると同じ片足立ちをする鶴千代という姐さん。
この人につるも片足立ちを見せて、すぐに自分も同じ寒い故郷で子守をやっていた事を分かってもらえるのですが、その時のつるの表情がいい。鶴千代はその晩に血を吐いて倒れますが。

それから男のイジメっ子達に囲まれて無理矢理に性器を見られたり、いろいろありながら成長して…
一人前の、それも花柳界に名を残すほどの美しい名妓になったつるは、鶴菊と名を改めてお披露目の日を迎えました。

それからも続いていくのですが、つる以外の登場人物は、1話ごと消えていく芸者や男達ばかり。
いや悪知恵の働く松乃屋のお女将さんと、後半はつるに仕込っ子として付いたが周りで動き回っています。

こんなに抒情的で素晴らしい絵でありながら、人間の内面的な心情描写も素晴らしくて、その上ちゃんと面白い。
少女時代からの成長をじっくり見ているから感情移入しやすくて、売れっ子になってからもまた世の中の辛さを味わったり…どうせなら続きを読んでその生涯を最後まで見届けたかったものです。


つるちゃんは自分がなんにももっていないと思ってるでしょう。
お金も………お家も………それから…きれいな着物も………
だけど、もっているのよ…女の…女だけの肉体を…
いくら売れてきたからって……
自分の肉体と心までは売ってはだめよ……
気がついたときには、もう遅いんだから。



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  1. 2009/03/25(水) 23:46:34|
  2. 劇画
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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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