今夜の
上村一夫作品は、
関川夏央先生を原作に迎えた晩年の傑作
「ヘイ!マスター」(
双葉社刊)です。
関川夏央先生といえば作家でもあり、漫画原作者としては
谷口ジロー先生と組んだ
「事件屋稼業」「『坊っちゃん』の時代」といったシリーズ物で知られていますが…
上村一夫先生との作品はこの
「ヘイ!マスター」と、同じくこの本にカップリングされている
「焦土の塔」のみ。
あの
上村一夫先生とはいえども、晩年に当たる時期は病気の影響もあって力は落ち、また時代とも合わない感じがありありと分かって代表作と言えるような作品も無いのですが、そんな中で1980年から1982年に執筆され、死後の1988年に刊行された
関川夏央原作作品の2作。
「ヘイ!マスター」は
増刊ビックコミック(
小学館刊)、
「焦土の塔」は
近代麻雀オリジナル(
竹書房刊)にて掲載され、共に全4話で構成された作品なのですが…これは面白いです。
いくらなんでも表紙が地味すぎると思いますが、こちらは
ちくま文庫で1999年に復刻された方。やはり
上村一夫絵が見れる方が嬉しいですね。

まず表題作の
「ヘイ!マスター」ですが、これは小太りな中年男でしかもゲイ(ホモ)の、新宿にあるバー
"Hey!"のマスターが主人公。
『新宿って街が嫌いなんだ だがあそこでなきゃ生きられない
自家撞着 自己矛盾ってやつさ』とうそぶき西巣鴨ガスタンクのすぐ下に住むマスターは元探偵で、同店で共に働くゲイの若者、
ボーヤが恋人のようです。
正義の男をたやすくは信じられないというマスターが、それがインテリヤクザの
矢島やらと共に事件に巻き込まれ、何とか解決していく作品なのですが、
上村一夫先生自身が生前愛していたというゲイバーの感じも暖かく見る事が出来る、ユニークな雰囲気を持った作品なのです。
そして2作目の
「焦土の塔」。
こちらは打って変わって舞台は敗戦直後の1945年、焼け野原から復興しようとする日本が舞台です。
インテリ学生の
佐々木二郎、プロレタリアのギャンブラー
熊井平吉、そして美人混血児の
ミミ・サワダ・マイケルバーガーが手を組んで成り上がり、また落ちていく話なのですが、
太宰治や
三島由紀夫らも登場する影響もあってか、少し文学的な作品。
男達を上手く動かす、ミミが魅力的です。
『世の中は病原菌であふれているのよ 滅菌なんて考えるだけ無駄
病原菌の海を泳ぎわたるいちばんいい方法は
自分がもっと毒の強い病原菌になることじゃないかしら』などと言う強く、そして美しい女…カッコいい!
過ぎた時代の描写、セリフの節々でも実力を感じ、勉強にもなります。
最後は
関川夏央先生の貴重な体験を知れる文章
「知る限りの上村一夫」に感激して本を閉じる事が出来る、愛すべき一冊でした。
名前も顔もわからない?
そりゃ無理よシャーロック・ホームズでも松田優作でもムリ ムリ!
それにぼくは探偵じゃない
昔の職を知っている男が そんな宣伝をするんでしょうが 実はいい迷惑なのよ
密かに倒錯の世界で生きておだやかに死にたい
それだけ………
スポンサーサイト
- 2009/04/02(木) 23:57:11|
- 劇画
-
| トラックバック:0
-
| コメント:0