大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

劇画(88) 上村一夫 12 岡崎英生 1 「夢師アリス」

今夜は上村一夫画、岡崎英生原作による「夢師アリス」(愛育社刊)です。
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連作形式の10章からなり、単行本は全2巻。

原作の岡崎英生先生は1943年の山形県生まれで、既に紹介した上村一夫作品の戸川昌子原作の作品で脚色として参加していた方です。
編集者から劇画原作者になり、上村一夫先生とのコンビ作品は「しなの川」「悪の華」等、いくつもありまます。

そして今回の「夢師アリス」
これがメチャクチャ面白く、1974年にヤングコミック(少年画報社刊)にて連載された作品なのに、2004年になって…つまり30年経ってやっと初単行本化された作品です!!
とにかく美しい上村一夫先生の絵に、得意のヤバさを感じまくるタブー描写、それに珍しいSF的な要素まで加わった名作中の名作。

そのタイトルで分かる通り、主人公の名はアリス。当然ロリータ要素のある謎の美少女にして、"夢使い"です。
主人公とはいっても、重要な役割はしつつもほとんどの章であまり前面には出てこない、狂言回し的な役割です。
その彼女が『無限』を意味するヘブライ語の『アレフ』を唱えると、何かが起こる。

第1章「夢殺し」。老人の独白から始まる話ですが、妻と友を殺してから20年におよぶ悔恨と絶望の人生が2時間の間に見た夢だったと分かるこの衝撃作でスタート。
他には離別する家族が最後の晩餐を終えてみたら家ごと23世紀に飛ばされてしまったり、超能力を欲しがる少年がアリスに『太陽のようにギラギラしていて太陽よりもっと重たいもの それは憎悪だわね』と人を憎む事を教え込まれたり、小さい子に母殺しをさせたり…
まさに怨念、悪意の使者・アリス。私もこれを読んだ夜に人間の悪意を味わう夢を見たのを覚えています。

ただ第5章は「不思議の国の上村一夫」のタイトルで、上村一夫先生を主人公に少年の日のエロチックな思い出とからめた、幻想的な物語でした。
さすがにこの話はアリスに『アレフ』は唱えられず、不幸にもならずに、
『この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とはあんまり関係はありません(岡崎英生)』
と注意も入りましたよ。

第7章の「盗作」は文壇とかつての恋人だった男女等を描いた大傑作で、ダブルスパイのようなマネまでして結局主要登場人物達を不幸にしたアリスがラスト、こう言います。
『ミッキー・スピレインの「大いなる殺人」という小説で主人公の私立探偵のマイク・ハマーがこう言っているところがあるの………
あの間抜けな男が 今のあなたみたいに「何故そんなことをする!?」とマイク・ハマーに訊くのよ
するとマイク・ハマーは吐き捨てるようにこう言うの………
「俺は人間が嫌いなんだ!人間が嫌いだからだ!」………』


次の第8章、「花いちもんめ」も凄いのでした。
ツトム少年はずっと姉だと言われてた人が実は自分を私生児として生んだ母だと分かり、その母が自分の存在を隠して結婚して行こうとした時、アリスに
『馬鹿よ アンタは 人を愛するからだまされるのよ これからは人を信じないようにするのね』
等と言われて、工事現場勤めの知り合いである健一さんから火薬を調達。その見返りにカマを掘られますが…
とにかくそれで作った時限爆弾が母の結婚式の場で見事に爆発し、母の首から上が吹っ飛んで両目や歯も吹っ飛ぶこの描写!

問題はこの不思議な力を持ち、いきなり現われては人々に不幸を撒き散らす(そうじゃない場合もありますが)、このアリスとは一体何なのか。

第4章の「アリス町アリス小路13番地 ー或るいは「養殖アリスの作り方」-」で、みじめな人生を歩んでしまった酒場の女が死のうとした時、『いま18だけど 10年前には35だった』というアリスに助けられます。
そしてシュールなアリス町アリス小路13番地に連れて行かれ、"アレフの神"に祈る数百人のアリスを目撃し、自分もアリスの一人になる…という話があるのです。
そのアリスは全員同じ顔で、つまりもう人間ではない存在なんですよね。

しかし最終章「アリスの履歴書 ーアリスはいかにしてアリスとなったかー」
この謎解きの残酷な出生の秘密に迫る最終回では、かつては確かに生身の人間。
目の前で自殺していった母の告白で、アリスは両親が一卵性の双生児同士だと分かり、そしてアリスも同じ呪われた血を受け継ぐ双生児の弟と交わる…
丹念に描かれるそのシーンと共に、
『邪悪な腹をもつおんなたちアリスよ
 おまえたちは兄弟と交わり 父親を夫として その忌わしい種子を宿すがよい
 おまえたちは この世に憎悪と怨恨をはびこらせる
 豊饒な母である (「アレフの福音書」終章)』

というのが描かれて終焉。

少しだけ宗教的な物も交えて文学的、詩的な恐怖幻想譚の世界を見事に表現していました。
連作短編で続くそのスピード感は全く衰えず、最後まで行ってくれたのが嬉しいです。

人を遠い未来に送り込んでおいて、自分は現在の…何と阿佐ヶ谷駅で窓口の係員にイタズラで『アンドロメダ星雲まで1枚……』なんて言って小悪魔的な笑みを浮かべたりもする、見た目が18歳なのがまた恐ろしいアリスでした。


あなたがそうして生きていらっしゃること自体 夢でないとどうして断言できます?
あなたとわたしは今 もしかしたら夢の中で会っているのかも わからないじゃありませんか……
自分が本当に目覚めているのかどうか
そのことをはっきりと知ることができる者は 人間のなかには誰一人としていないのです……



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  1. 2009/04/16(木) 23:59:28|
  2. 劇画
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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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