大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

劇画(96) 小池一夫 9 松森正 2 「片恋さぶろう」 2

前回に引き続き小池一夫原作、松森正作画の「片恋さぶろう」(スタジオシップ刊)です。
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徳川家康の遺言を受け、孫娘である和子姫(ひいさま)が入内するのに反対し刺客を送ってくる公家勢力から、その身を守る事に命をかける"大捨流"の使い手・片乞三郎信綱

徳川譜代の大忠臣である上野介正純の哀しい乱心を防ぐために斬り、次に京の公家が仕込んだ手は力でダメなら色でと、蝶の綱雪という色男を送り込んできました。
『男と女 男と男 あらゆる色の道を仕込ンでござる』
と言われるこの色男が和子を落とそうとし、ついには夜這いをかけるのですが…
これは珍しく、片乞三郎の手を借りずに和子自身の手で綱雪を撃退します。

今までどのような女子でも想いを寄せてきた美しい綱雪の最期に、和子は
『武家の女子はた剛き者に想いを寄せるもの しかして心やさしき者にッ』
と言い放つのですが、それは正に片乞三郎の事。
この辺りから、二人の許されぬ恋愛が、もちろんストイックなままに描かれます。

しかし和子も強くなったものです。片乞三郎に習っている武芸の腕はもちろん、精神的にも。
綱雪に手相を見せてあげた時も、大あくびした後に
『人の運命を左右するものは掌紋などではありませぬ その人間の強い意思じゃッ
綱雪どのにはわからぬかもしれぬが 武士という者は常に死を背負うておるもの
士道とは死ぬことと見つけたりという 自分の意思で死を選ぶ者に掌紋など何の影響あるや』

と言っていました。

しかし意外と片乞三郎の方は易を重要視していて、人の心が見えすぎるゆえに人の中に棲めず山奥で暮らしている稀代の占い師・水笑婆を訪ねて占ってもらいます。
そこで和子についての想いを吐くように強要され、始めは
『天地神明に誓いそのようなことはないッ 色恋などそれがしの心には微塵もござらぬわッ』
と言っていた三郎が…素直な心を引き出され、ついに作中で初めて好きだと自白しました。
そして川に向かって『ひいさまが すきじゃアアア~~ッ』と叫びまくるのです。

この水笑婆から譲り受けた犬のシロクロを引き連れて城へ戻り、次なる敵は…
「片恋さぶろう」の全編通して最強の敵、中国の"墨者"と呼ばれる思想教団の生き残り姉妹・李掌朴踵
この二人を連れてきた雇い主の商人・平戸屋重蔵は卑怯な手で二人を犯し、すぐに殺されるのですが、それでも約束のため李掌と朴踵は和子の命を狙ってきます。

この敵の二人がまた哀しい運命を背負っていて、そしてバカ強い。
関所破りでついに江戸まで到着し、城下町は焼き払われ城を守る忍者軍団は全滅、シロとクロまでやられて、何とか和子を護りきった片乞三郎をして
『げにも凄まじき者たち さすがは墨者というべきか
かかる強きの者たちには出会うたこともない』

と言わしめました。

李掌と朴踵の姉妹によって江戸や和子の警護部隊もあまりにも大きな痛手を受けましたが、ここからがさすがは片乞三郎。
殺してしまっては殺された者たちが無駄死にしたことになると、味方にして和子を守護させるのです。

ところでこの李掌と朴踵。
同じく小池一夫&松森正コンビの生んだ名作「拳神 海渡勇次郎伝」に出てくる女間諜の道眼洋子とかなりかぶるキャラなのも嬉しい。

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最終の7巻・・・

いよいよ和子の入内の日が決まり、最後の刺客との対決です。
ここで猟師で風嗅ぎの六根治という鉄砲の名手が登場し、没落した武家・勘解由小路家の姫とのロマンスが描かれて…
確かに暗殺依頼を受けた六根治ですが、彼は囮にすぎず、その裏に合伝流銃術でプロの鉄砲撃ちが控えていました。
それらを見抜いた片乞三郎による裏読みも見事でしたが、捕らえた六根治が黒幕の名を吐かぬと判断した後の対応も凄い。

鉄砲を持つ六根治と果し合いをし、打ち損じたら吐かせ、しかし見事に仕止めれば自由にしてやると約束するのです。
片乞三郎も鉄砲の弾をかわせるなどと考えてはおらず、撃たれても即死さえ避ければ雇い主の名を聞き、残った命の時間でそいつを斬りに出向くというのです。
黒幕も和子が入内すれば皇家の一員となり、手出し出来なくなるため、これが正真正銘最後の戦い。
『彼奴等もこれが最期のくわだて わしも最後のおつとめだッ 彼奴等を斬れるだけの生命が残ればよいのじゃッ』
というのが三郎の覚悟なのです。

果し合いの結果は予言通り。片乞三郎は撃たれながらも六根治の鉄砲を叩き落し、雇い主は母外寺の住職・崇源和上と右大臣・近衛信尋だと判明しました。
大量の血を流しながらもこの二人に天誅を下し、ついに全ての不安要素を取り除いた・・・・

しかしそれも束の間、江戸から知らせで、出発の時間になっているのに和子が
『三郎がもどるまでは和子はここを動きませぬッ 三郎を待ちますッ』
などと迷惑すぎる意地を張り、そのため片乞三郎、満身創痍の体で何とか江戸まで生命が保つように祈りながら継ぎ馬で走りまくるのです。

破傷風も起こし、死にかけてボロボロの体で江戸に着いた三郎は酒風呂に入って泥や血を洗い流し、正装をして登城。
和子は入内の晴れ姿を完了し、その姿は父である殿よりも三郎に見せるのだと待っていますが…
いよいよこれが最後になる対面です。
その場に座った三郎は、
『ひいさま……お美しゅうあらせられて……この世のものとは思えぬほどに
ご入内の儀まことにもって祝着至極に存知まする』

と、最後に残った生命で挨拶をし、頭を下げて
『この片乞三郎信綱 魂魄と成りて ひいさまを守護し奉り 御供つかまつらン』
そう言いきると頭を床につけたまま動きが止まり、命も尽きてしまいました。

その後和子は入内して公家との繋がりが出来て、ご存知のように徳川家は長い安泰の時代に入るのですが…
締めくくりのナレーションは、
『入内予定日は六月八日なれど 和子病気のため十日間の延期となり
 六月十八日 和子入内の儀 無事に何事もなくとり行われる
 この空白の十日間になにがあったのか 世人知る由もなく
 無役無冠の士 片乞三郎信綱が事 史実にも無シ』
でした。
最後までストイックに和子を護り、愛し、文字通り命をかけた片乞三郎の哀しすぎる物語でした。


片乞三郎~~ッ 日本一じゃ~~ッ
日本一強くて日本一哀しい男じゃ~~ッ
ご入内のひいさまを想うておるッ さればこそわしの心がわかるッ
さればこそ哀しいッ 哀しくて強いッ
片恋さぶろうじゃ~~ッ
実らぬ哀しい恋してさぶろうーーッ



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  1. 2009/05/15(金) 23:16:17|
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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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