大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

劇画(100) 谷口ジロー 1 夢枕獏 1 「餓狼伝」

今回紹介する谷口ジロー先生は超の付く実力者ではありますが、その凄さのわりにはどうも知名度が低いようです。
驚くほど地味なテーマを漫画にしたりマニアックすぎるネタで描いたりするためか…もちろん、不特定少数(といってもけっこうな数)のファンが付いている事は確かです。

特にその渋すぎる内容から若者にはウケにくいようですが、少なくとも私は大絶賛と共に薦めたい谷口ジロー先生は1947年生まれの鳥取県出身。
石川球太先生のアシスタントを経て1971年に「嗄れた部屋」でデビューしているのですが、さらにその後も上村一夫先生のアシスタントを経験してます。師匠が石川球太先生→上村一夫先生だなんて、そりゃ絵が上手くて当然ですね。
しかも二人の影響もそのまま受けているわけではなく、あくまでオリジナルな作風を確立しています。

その絵の細かい描写力は本当に凄くて、やはり絵に集中するためなのか原作者付きの作品が多いのですが、久住昌之先生、関川夏央先生、狩撫麻礼先生・・・他、組む原作者も素晴らしい方々が多いです。
「イカル」という作品では、何とあのフランスBD界の巨匠・メビウスを原作に迎えてます。メビウスは、もう一つのペンネームに本名のジャン・ジロー(Jean Giraud)というのも使っているのですが、そうだ二人ともジローなんですね…
本当にフランスでも知名度が高くて、実際に私自身がフランス版を見つけた時の事も「ココ」で書いてますが、それ以前にも以後にもフランス人からJIRO TANIGUCHIの名前は聞いた事があり、同じ日本人として誇りに思ったものです。

描く作品ジャンルも幅広い上にどれも一級品ですが、ハードボイルドが得意なイメージがありますね。
代表作は「事件屋稼業」「「坊っちゃん」の時代」「ナックルウォーズ」「ブランカ」「岳人列伝」「神々の山嶺」等々…
他に私が特に好きなのはペット・エッセイ漫画の名作「犬を飼う」、それにノスタルジックな人間ドラマの名作「父の暦」では地味な作品ながら泣いてしまいましたし、久住昌之原作で食べ歩きや散歩物の「孤独のグルメ」「散歩もの」は近年の名作でしょう。


そんな谷口ジロー先生の作品の中から今回特に紹介したい一作は・・・「餓狼伝」(朝日ソノラマ刊)。
TANIGUCHI-YUMEMAKURA-garou-den1.jpg

もちろんあの夢枕獏作の格闘小説が原作で、地味な小説雑誌である獅子王にて1989年から1年ちょっと連載された作品で、単行本は全1巻。
オリジナルの小説は「新・餓狼伝」とタイトルを変えながらも未だに続いているわけですが、これの最初期…原作名も「餓狼伝」だった時代のわずか第1巻の部分を、ほぼ忠実に漫画化した内容になっています。

あの長い小説のわずかに1巻だけという事は、原作ではほんのエピローグ部分になるのでしょうが、これは掲載誌の獅子王が休刊になったので仕方ないのです。
それでも私には唐突とも言えるこの終わりが上手く、またちょうど良く思えますよ。もちろん登場したばかりのキャラがどんな奴かまるで分からないし、張っていた伏線は生かせなかったとかありますが…

さて、主人公は丹波文七
空手家であった丹波は、17歳の時に自分より強い先輩の斉藤がヤクザに殺される事件に立ち会ってしまい、逃げようと思って気付いたらそのヤクザをボコボコにしていた自分…そして一つ殴るごとに快感を感じている自分に気付き、それから自分の闘う生き方を運命付けられた考えています。
そして25歳…鍛え抜かれた丹波は"東洋プロレス"へ道場破りし、そこで出会った若手プロレスラーの梶原年男に激しい闘いの末に、17歳の事件以来初の敗北を喫するのです。

それから二人は鍛えに鍛えて6年後…と、この谷口ジロー「餓狼伝」では丹波文七VS梶原年男という二人の対決を軸に描かれます。
丹波はあの敗北の時に自分で悲鳴を上げてしまい、その悲鳴が耳にこびりついているために何としても今や売れるレスラーになっている梶原を倒さなくてはならない。

北辰会館の空手家も関わる三つ巴となった最終決戦は公園のアスファルトの上…ついに丹波は梶原に勝利して終わるのです。
ここまでほぼ原作通りに進んできた漫画版ですが、このラストシーンは原作と違いますね。
いよいよ闘える段階になってから丹波には『何のために闘うのか』と自問するようになり、また梶原に勝ってからも、
『…たまらない孤独が文七の顔に張りついていた』
という言葉で終わる勝ったのに哀しさ漂うラストなのだから渋すぎ、子供が大好きな"バトル漫画"というくくりになるとしても、これはあくまで大人向け作品である事を感じさせますね。

本当は漫画「餓狼伝」といえば、今では現在も連載中である板垣恵介版が有名ですね。私もずっと楽しみにして読んでいる読者の一人です。
ITAGAKI-YUMEMAKURA-garou-den23.jpg
(これは最新刊の23巻)

こちらの講談社から出た文庫版では、その板垣恵介先生があとがきを書いていますよ!
TANIGUCHI-YUMEMAKURA-garou-den2.jpg

板垣恵介版はさらに化物揃いで、オリジナルキャラや他の夢枕獏作品に出てくるキャラも融合させた傑作になっているのですが、リアル志向の谷口ジロー版はあくまで主人公も含め登場人物はちゃんと"人間"レベル。
描かれる肉体も板垣版のようにスマートじゃないし、顔もまぁ女子供のウケを取れるようなイケメンではないし…
あの華奢で女性のような綺麗な顔をしているはずの姫川勉すらも、ちゃんとゴツイ人である所を見て、これは原作小説よりもはるかにリアルである事を実感します。

新書版ではあとがきを原作者の夢枕獏先生が書いていて、
『谷口さんは、プロボクサー、アマレスラー、プロレスラーの肉体の違いを、はっきり描き分けられる稀有な作家である』
などと述べていますが、格闘技ごとの選手の体の描きわけ…そこまでのリアリズムを追求するのが谷口ジロー先生。

闘いの最中の描写も凄くて見入ってしまうのですが、この地味で緻密な関節技の攻防と呻き声…
『恐ろしくどろどろとした闘いであった 血液の中でのたうち もつれあう 二匹の蛇さながらであった』

あと丹波は最初の方で竹宮流という、あの竹内流(日本の歴史上最古と言われる柔術の流派)をモデルにした流派の泉宗一郎とも闘うのですが、個人的にはこの竹宮流をもっと谷口ジロー先生の手で描いて欲しかったですね。

ケンカの強さに取りつかれた男の、ただただ鍛えた男の肉体のぶつかり合い、そしてその種の男の生き様を描いたと言える「餓狼伝」は、谷口ジロー作品の入口としてもオススメできます。
貴方も是非、読んでみてください。


血の小便が出たよ…
おれは…梶原とやる時のことばかり考えて生きてきたんだ



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  1. 2009/07/27(月) 23:00:10|
  2. 劇画
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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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