大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

劇画(101) 山上たつひこ 1 「光る風」

今夜は、山上たつひこ先生の「光る風」(朝日ソノラマ刊)です。
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1970年に週刊少年マガジン(講談社刊)にて連載された作品で、単行本はこのサンコミックス版だと全3巻。
『暗い漫画が好き』とか言う人がいるといつもお薦めしちゃうくらいで、とにかく暗く重い内容です。
今では見る影も無い誌風になっている少年マガジン読者に言っても信じてもらえないかもしれませんが、この時期の少年マガジンはガロみたいと言われるほど実験的で青年向けの内容となり、問題作も多数出てきていたのです。そして、この「光る風」は特に凄い。

ではまず、山上たつひこ先生の紹介を軽くしておくと、1947年の徳島県生まれで大阪府育ちです。
この方も貸本劇画出身であり、1965年に「秘密指令0」で漫画家デビューしているのですが、初期は貸本出版社の社員として編集をやりながら描いていたそうです。
貸本で暗くシリアスな劇画、SF漫画を描いていた山上先生は、少年マガジンというメジャーの舞台に進出してからも「2人の救世主」「鬼面帝国」という、これもファンの多いシリアス漫画を発表したのでしたが、その次に上梓したのが今回紹介する「光る風」です。

この「光る風」が少年漫画としては明らかにヤバさの限界を超えているのですが、それが連載終了すると一転してノリの軽いファンタジー漫画「旅立て!ひらりん」、そして…突如馬鹿すぎ、面白すぎの実験ギャグ連作「喜劇新思想大系」、さらにあの大ヒット作「がきデカ」と続くのですから、底が知れません。

「がきデカ」…1974年から週刊少年チャンピオン(秋田書店刊)で連載された、ハレンチでお下劣、そして汚いこの作品(褒め言葉)は、日本初の本格的ドタバタ物ギャグ漫画とまで言われて大ヒットし、後のギャグ漫画にも大きな影響を与えました。変態少年警察官・こまわり君の『死刑!』はご存知の方も多いでしょう。
「がきデカ」のヒットのせいでギャグ漫画家のように思われ、確かにそちらの才能も抜群だった山上たつひこ先生ですが、それでは何故シリアス漫画からギャグ漫画に転身したのか。そのきっかけとして「光る風」を描いた後、右翼の者に刺されて重傷を負ったという事実が一因としてあるらしいです。それだけ政治的にも問題作であり、重ねてこれが少年マガジンで連載されてたというのも驚くばかりです。
何しろ奇形や原爆やらのタブー触れた、さらに左翼イデオロギー溢れるヤバイ作品ですからね…。
ちなみに山上たつひこ先生は「ブロイラーは赤いほっぺ」(河出書房新社刊)で小説家としてもデビューし、その後漫画家を引退して山上龍彦名義で小説家に転身しています。

あの「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の作者・秋本治先生がデビュー当初使っていたペンネームの山止たつひこ名義は、この山上たつひこ先生のパロディである事は、まぁいちいち言わなくても分かりますよね。


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さて「光る風」、作品の舞台はXXXX年の日本です。
年号はこんなですが、明らかに戦後数十年の…つまり現代か、当時から見てごく近い未来をイメージしていいと思います。いや、どの時代とかではなく、軍国主義がそのまま残ったか復活した、こうあったかも(なるかも)しれない戦後の現代日本だと思った方がいいですね。

冒頭。大杉という高校教師が生徒三人を連れて一般人の上陸が禁止されている出島に上陸し、ここで行われている醜い奇形の人(フリークス)達のお祭"異形祭"を目撃しますが…ただ踊っているだけなのにすさまじい光景です。
彼らはその名も"藻池村事件"という、かつて流行した謎の奇病の被害者。政府が建設したその人工の出島に、大量発生した奇病患者・奇形児ら藻池村出身者は強制移住させられているのです。
いきなり大きな陰謀を匂わせますが、この藻池村事件を軸に物語は展開していきます。

主人公はここで特務警察に見つかって服役した大杉の生徒で、しかし連れていかれた生徒ではない…六高寺弦
父の甚三郎が元陸将、兄の光高は国防隊の幹部候補生というエリート軍人の家系に生まれ育ちながら、凝り固まった愛国心やその境遇が我慢出来ずに家を出て、権力に立ち向かっていく。
それもそんなにカッコいいものではなく、巨大な力に翻弄されてひどい状況に追い込まれていくだけだから恐ろしい話です。

学生ながら自立して"旭出版"で働くことになりますが、そこの社長・古谷信吉が実は藻池村の出身者という秘密と奇形の一人娘を持ち、藻池村事件の真相を暴くために地下活動をしている事が判明。
その手伝いをしたいと申し出た弦は、ますます国家権力に対する憎しみを深めて活動し、憲兵隊に逮捕されて拷問の末に死体以外は釈放しない収容所へ入れられますが…ついに便所の排泄口から糞尿が詰まった25メートルのパイプを泳いで脱走。

革命を狙う出島のフリークス軍団、汚いアメリカ軍の陰謀と一部の日本国軍人のクーデター…それぞれの人生が絶望と共に描かれますが、弦たちも破滅に突き進んで行きます。
過剰に残虐な殺人シーンもありますが、何と言っても衝撃的なのは弦の兄・光高。国防隊の一員として出征した彼は、負傷により早い帰国をしたのです。そしてその姿は手足の無いダルマ状態!

惨めな姿になった光高は性格も歪んでしまい、六高寺のお手伝いで弦を慕う
『そんなに・・・・いやらしいか きたならしいか このからだが!
そうだ おまえはいつもおれを見るたびに思っているのだ
「ヌルヌルとしてまるで・・・・イモムシのようだ」
「ダルマだ グロテスクな生きたダルマだ」と!
はははは そうだな・・・・な 雪・・・・ムリもない・・・・そうだ おれはダルマだものな!
はははは ダルマだ ダルマだ
いやらしい はき気がするよなァ ムリもないさ
おまえが目をそむけるのも ムリはないよなァ』

などと言い、しかもその体で雪に襲い掛かり、その凄まじい描写の後に絶望して池に身を投げるのです。

さらにさらに!光高の負傷の原因はアメリカ軍が開発した細菌爆弾であり、大事な自国の兵士には運ばせず光高が扱って事故を起こしたその爆弾こそは、どうやら藻池村事件と同じく彼らが極秘に開発した物で…
父・甚三郎もアメリカ側の勝手な言い分を聞いているうちに、ついに自分と同じく息子も国家を愛するように教育してきた事への間違いに気付くと、アメリカ陸軍病院の代表であるスタッカーの頭上へ日本刀を振り下ろす!
こんな事をしては当然、六高寺家も破滅です。ただしアメリカ軍に捕まるより妻の文江を斬り、自身も切腹して家に火を付けた甚三郎は、文江と光高と共に焼死体を晒し者にされました。

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残った弦は、絶望的な状況の中でついに雪と結ばれるのですが、政府に追われる二人にさらに巨大地震が襲い掛かり、雪も最後は無残すぎる姿に…

実際の歴史も絡めながらリアリティある進行で進み、権力への恐怖と共に人間の弱さや汚さを描いた「光る風」
公害問題、安保闘争、ベトナム戦争…連載当時に起きていた歴史の負の部分を汲み上げて、権力への憎しみと恐怖を描き、しかも何の解決もないのが最後まで辛い。
弱く小さい反対分子は人間臭くて、強い体制側は冷徹。というのはこの時代では映画や小説などでも定番の描写なのですが、「光る風」でも体制に仕える人間はロボットのように描かれていたりするあたりで左翼イデオロギーも鼻につきます。もちろんわざと嫌な後味を残して深い印象を残す目的もあったと思うし、私の胸を壮絶に打つモノもありました。

そんなわけで主人公の六高寺弦はあくまで無力で、時代や圧政に立ち向かいながらも巨大な力にかなうわけもなく、ヒーローでないどころか被害者なままで終わる…悲しい話。
最後の方を読めば、悲運の男女の愛を描いた作品ともいえるのですが、あまりにも急展開すぎました。

おそらくは打ち切り命令が下ったのでしょう。終盤は全てを急いで終わらせてしまい、いくつかの伏線だったはずの物が出てこないままだったりもします。
もちろんこの形が、その時代に出来た完成系と判断して差し支えないのでしょうが、最初の構想ではどのような形になるはずだったのか、いろいろ想像してしまいます。

3巻に併録されているのは、同じシリアス物で戦争にも関わる暗い、しかし少し詩的な傑作「回転」
そしてここまで重苦しい話が続いて辛い読者のために、ギャグ漫画を描く時の作風な「カマガサキ2013年」という小松左京原作作品も収録されています。

漫画史上の問題作である「光る風」は、いろんな形で何度か再発されていますが、こちらは『山上たつひこ選集』版。
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全20巻で双葉社より刊行された選集のうち、11,12巻が「光る風」なのです。
こちらは上記の「回転」の他に、「鵺・秩父地幽党始末期」「国境ブルース」「故郷は緑なりき」というシリアス漫画の傑作が集められていて、山上たつひこ先生の才能を知るのにもってこいでしょう。
しかもこの選集シリーズは、各巻の巻頭に書下ろし自伝エッセイである「大阪弁の犬」が連載されていて、ファンには貴重な話を知る事が出来、しかもこれでしか読めない(単行本化されていない)のです!
ただ残念な事に、山上たつひこ先生が小説家へ転向したきっかけとして「光る風」連載時に編集者の手で勝手にセリフを書き換えられたからだと言われているのに…この選集でも、恐らくは出版社の自主規制によっていくつかのセリフを書き換えられています。

「光る風」。私のブログのカテゴリーではどこに入れようかを少し迷ったのですが(何しろSFであり、ホラーでもあり…)、結局無難に劇画扱いとさせてもらいました。
思想や信条的には私の考えが作者と同感とは言えないのですが、確実に考えさせられる事にはなります。きちんとエンターテイメント性もある名作だし、多くの日本人には能天気な漫画を置いて、たまにはこんな作品も読んで欲しいものです。


おまえらは みんなくるってるんだ!
おまえも!おまえも!おまえも!ばかだ!気ちがいだよ!
なにがばんざいだ!お祝いだ!お国のためだ!
うれしそうな顔しやがって なにがばんざいだよ!
おれたちの時代はあやまちを ゆるされないんだ!
なぜなら これとまったくおなじあやまちを
すでに過去にわれわれの おやじやおじいさんが おかしているからだ!
前例がありながら それとおなじあやまちをくりかえすなんて 人間のすることじゃない!
それともきさまら けものかよ!? 人間じゃないっていうのかよ!? ええ!? どうなんだ!?
おまえら・・・・くっくっ・・・・みんな・・・・どうしようもない やつばかりだな くく・・・・
死ね!死ね!おまえらみんな死んじまえ!
おまえらは ひどいめにあわなきゃ わからないんだよ!



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  1. 2009/10/05(月) 23:56:18|
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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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