大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

藤子不二雄(51) 「タカモリが走る」

犬漫画…それは何も、高橋よしひろ先生や石川球太先生や木村えいじ先生、そういった方々だけの専売特許ではありません。
我等が藤子不二雄作品にも、犬漫画の傑作があるのです。それが、「タカモリが走る」(中央公論社刊)。
FUZIKO-takamori.jpg

あの"藤子不二雄ランド"(FFランド)の巻末新作漫画として1988年から1991年まで連載されていた作品で、単行本はB6判の分厚い本で全2巻。もちろん1987年のコンビ解消後の作品ですので、藤子不二雄A名義になっています。
藤子A先生が大の犬好きなのは知られている事だし、他の作中でも頻繁に犬が登場しますが、この「タカモリが走る」ではついに犬が主人公。それだけに意欲作だったでしょう。今作はFFランドの第1期ラストを飾ったVol.301の「UTOPIA 最後の世界大戦」にも収録されているのですが、それはつまり連載する媒体が無くなったために終了した事も意味します。
FFランドは第1期しか存在しないのですが、第2期が刊行開始されるという夢のような事が起こったら、また巻末で連載再開されるのでしょうか。

主人公は秋田犬のタカモリで、生まれたばかりのそいつを飼う事となった西郷家との交流、成長が描かれていきます。何故名前がタカモリかは、主人の家が『西郷』なのですぐに分かるでしょう。
犬漫画の中では動物が擬人化されて描かれているかいないかが大きな分かれ目ですが、タカモリは擬人化無しでリアリティのある方。独白するし動物同士では言葉を話したりもしますが、犬の特徴を観察したり学んだりするためにも、これから犬を飼う方には絶対読んでもらいたい。現在絶版ですが…

可愛い子犬のタカモリと共に成長していくのは、小学生の和義
作品の舞台が東京の郊外にある新興住宅地なので、最近周りの山を切り崩して大規模な宅地造成を始めているそうです。そこで1話目から出る和義が独白で、
『<むかしはよかった……まわりに緑がいっぱいで、空気もほんとに澄んでたのに……>と、父や母はなげく……
<このようすでは、そのうち、このまわりの山は、みんなすがたを消してしまう!>
<人間のエゴのために、こんなにどんどん自然を破壊していっていいものだろうか!>と父や母はおこる!
しかし考えてみたら、父や母やぼくの住んでいるこの家も、山をけずって作られた造成地に、建てられたものなのだ!
それなのに、後から建てられる家のことを自然破壊だの、環境破壊だのとおこるのは、勝手だと思う!』

と、なかなか良い事を言います。そういう事を分からない人々が多い世の中ですから…。別に「タカモリが走る」は環境がどうこうといった作品ではないのであとはその問題には全く触れませんが、和義は頭のいい小学生だとキャラ設定を知らせるには十分。メガネかけた利発そうな顔つきで、半ズボンはいてます。

西郷家は和義の他に、ちょうど犬漫画「怪犬クロワン」を連載中の漫画家・西郷もりたか。そしてかつて少年漫画誌編集部の担当だったママがいます。
西郷もりたかの若手漫画家時代に『池袋に近いアパートで漫画を描いていた』という描写があるのですが、となるとここは恐らく伝説の"トキワ荘"…職業が漫画家なだけでも、かなり藤子不二雄A先生自身を投影したキャラだと言えましょう。タカモリと同じ秋田犬をQ太郎と名付けて飼っていた事もありますしね。
しかもあの「まんが道」のように作中漫画もけっこう読めて、それが面白いのが嬉しい。現在連載中なのは「怪犬クロワン」の他に「キチ吉くん」というのもあり、この後者がかなり狂ったギャグ漫画で凄いんですよ。しかもかのレア作品「狂人軍」に出る狂犬病のヤバイ犬キャラ狂犬狂太郎乱犬乱四郎という名で登場します!トキワ荘(?)時代の過去作品として「ヘン訳 世界メイ作漫画」というのも読めますし…

物語の中心となるのはタカモリの成長ですが、玄関の箱で住んでた時に棟方志功の掛け軸をメチャクチャにしちゃってママが鬼と化したために初めて外に飛び出してしまい、そこで酔っ払いにスキヤキの肉にされかけたりで外の世界の大変さを思い知りますが、セントバーナードのぜんじと出会い助けてもらいます。このぜんじという老犬は偉大な導師のような存在で、後に人間である和義にもテレパシーで話しかけちゃいます。

他にもパパの仕事場に入り込んで完成した原稿にインクをこぼして台無しにする失敗もありましたが、これを和義が身代わりに罪をかぶって殴られる感動の話もありました。
夜鳴きをしたり新しい歯が伸びてきて痒い為に噛み付き魔になったり…そのうち庭に自分だけの小屋を作ってもらいますが、和義がライオンに襲われる夢を見ている時に夢の中まで助けに来てくれたり、といった交流を重ねる事で和義とタカモリは深い友情とテレパシーで結ばれている事まで感じます!

シンプルな作品で登場人(犬)物は少ないのですが、タカモリに一人で生きる厳しさを教えてくれる野良犬ののらじろう、そして出る回数は少ないながら和義が密かに恋心を抱くヒロインの少女七瀬葉子が重要。
ミッチーという飼い犬までタカモリに惚れられますが…この葉子が実は心臓が弱く、彼女の可哀想な結末が「タカモリが走る」の最後を締めくくる山場として用意されています。
悲劇の後は1話目でも出てきたいとこのミズキちゃんが子犬を拾うのですが、自分もまだ子犬なタカモリが兄貴ぶる所で終了しました。

私も少年時代に和義のような立場でずっと犬を飼っていた犬好きですが、また飼いたくなりました。犬と人間の両方の視点から物語が描かれている所も見事ですね。
犬の生活習慣など飼った事のあるは『分かる分かる』と嬉しく読むでしょうし、これから飼う人に対する勉強・教育漫画にもなります。
その分、藤子A先生の怪奇趣味をクローズアップしたブラックな作品を求める人には物足りないかもしれませんが、迷い込んだ団地で少年に追い回されて殴られたために噛み付いたら自分から襲ったように言われて主婦連合に囲まれるシーンなど、絵も含めて怖い。
物言わぬ犬に対する人間の汚さも少し描かれていて、悪い人間は大抵悪人顔しているものですが…あのラーメン好き小池さんも悪い側の人間としてゲスト出演しているのは笑いました。


哀しむがよい……おもいっきり その人のことを哀しむがよい……
哀しめば哀しむほど その人の思い出はふかく心にのこるだろう……
その人は永遠にきみの中で生きるわけだ……



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  1. 2010/06/06(日) 23:40:35|
  2. 藤子不二雄
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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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