大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

梶原一騎(43) 小島剛夕 2 「斬殺者」 1

(今回はゲストライター、奈落ハジメ氏の投稿です)


ご無沙汰しております。ここでの出没頻度ではドラクエのはぐれメタルといい勝負の奈落です。
実は私も、管理人のBRUCE氏が敬愛してやまない梶原一騎作品には少なからず愛着を持っております。
その中でも珍しい時代劇である『斬殺者』は、個人的にかなり好きな作品の一つですね。
KAJIWARA-KOJIMA-zansatsusya1.jpg

本作がスタートしたのは、少年マガジンで『あしたのジョー』が連載中の1971年(S46年)。
掲載誌は、梶原一騎初の青年誌での連載となる漫画ゴラク(日本文芸社)でした。
この漫画ゴラクこそ、後にスキャンダルと大病を経た後の絶筆『男の星座』で巨星に最後の花道を用意した雑誌。
梶原一騎とゴラク――その縁は遡ること十数年、この『斬殺者』に始まっていたという事ですね。

初の時代劇作品、梶原御大がテーマとして選んだのは宮本武蔵でした。
そう、今をときめく『バガボンド』の主役であり大河ドラマの常連でもある、恐らく世界的に最も有名なサムライの一人です。

その連載第一回目の記念すべき1ページ目をめくってみましょう。

慶長十七年四月
豊前小倉藩の剣術指南
巌流・佐々木小次郎
船島の決闘において
作州牢人 宮本武蔵に討たる


えっ、いきなりそこ!?

この巌流島の決闘は、いわゆる“武蔵もの”では最大級のクライマックス。有名な吉川英治の小説『宮本武蔵』のラストシーンでもあります。
ですが、『斬殺者』の中では2ページで瞬殺単なる前置きに過ぎません。もっといえば吉岡一門宍戸梅軒らライバルとの死闘の数々も、本作では既に終わった「エピソード0」でしかないのです。

“武蔵もの”で一番オイシイ所の数々を全部カット!
ここから後って隠遁するまでのイマイチパッとしない展開しか残ってないんじゃ……という不安混じりの期待を否応なく感じるプロローグですね。

ストーリーは、小次郎のパトロンだった細川藩主がこの決着に不満を持ち、武蔵を付け狙うところから本格的に始まります。
家老の長岡佐渡によって集められた刺客候補の先生たち、雇い主にいいところを見せようと口々に剣術論を闘わせるのですが……

「そもそも剣法とは仁・義・礼・智の四徳に基づくものと心得る。剣は敵を斬るものにあらず己の心の非を斬るためにあると!」
「相討ちの気構えが肝要でござる! 己のみが生き長らえ相手のみ斬ろうとするところに慢心・迷い・弱剣が生じまする」
「剣と忠は同義語なり!」
「よしあしを思う心を打ち捨てて何事もなき身となりてみよ!」


現代に生きる我々の日常でも、割と見かけられる光景かもしれません。そう、酒場でクダを巻くオッサンの武勇伝とか、売れない貧乏ライターの高尚な創作論とか、独りよがりの自分語りを垂れ流す酔っぱらいそのまんまですね。

いやぁ他人事とは思えませんねぇ。

だがしかし!
そんな長岡佐渡と読者のイライラを吹き飛ばすように、エセ剣聖談義を馬鹿にしきった大笑いが響き渡る――その主こそ、我らが主人公・無門鬼千代その人だった!

……えっ? 主人公は宮本武蔵じゃなかったのかと?

確かにタイトルの『斬殺者』とは、剣聖と呼ばれた宮本武蔵を血生臭い“人斬り”と捉えた世界観を表現したものに間違いないでしょう。
ですが、劇中での武蔵の立ち位置は主人公と呼ぶには違和感があります。既に己を極め泰然自若とした武蔵は、物語の中心にあるものの決して物語を動かしません。その役を担うのは、その武蔵を越えるべき敵として執念を燃やす無門鬼千代の行動なのです。
ではなぜ、鬼千代は武蔵を追いかけるのか?

その答は、ニワカ剣聖たちを冷ややかに見降ろしうそぶく台詞に凝縮されていると言えるでしょう。
KAJIWARA-KAGEMARU-karate-baka-ichidai.jpg

「それ、もしかすると剣術?」

……すいません。シチュエーションが似てるだけで全然違う作品のセリフネタでしたね。
冗談はさておいて、本当はこうです。

「剣の本質とはそもそも外道につきる!
 剣術とはいかに己れが斬られぬ工夫をしつつ他人を巧妙に斬り殺すかの術!」


剣術=外道――この『斬殺者』を貫く一大テーマを体現したようなこの男。
しかしその「飯を食うように人を斬る」外道剣をもってしても届かぬのが、同じ道を行く大外道とも言うべき武蔵の巨大な背中なのです。
わずか12歳で武蔵に惨殺された幼友達・吉岡又七郎の死に様から、トラウマ的にこの武蔵イズムに開眼させられた鬼千代。
彼は一種の師であり仇である武蔵を斬ることに執念を燃やし、七転八倒しながらその背中を追いかけ続けてゆくことになります。武蔵とは鬼千代の同類にして完成された理想の姿であり、越えられない壁なのです。

さて。武蔵暗殺の刺客とした雇われた鬼千代、「宮本武蔵斬殺可致者也」の旗指物を背負い、行く先々で武蔵を挑発するように暴虐の限りを尽くします。
往来で嫁入り道中を襲い花嫁の純潔を散らし、宿屋では喧嘩を売って来た牢人どもを秘剣三日月落とし(利き手の親指を削ぎ落とすエグイ技)に切って捨て、とどめに宿賃の踏み倒し!(最後だけしょぼい)

「これまた足の速い東への旅人よ 武蔵の耳に入れてやれい!
 うぬの外道剣に十二歳の稚友達を一刀両断にされた男が
 うぬを越える外道剣を発心 うぬが存在しては天下一の外道剣となれぬから
 斬り殺しに赴く途中も外道修行中とな!」


通りすがりの人への伝言にしちゃ長すぎるよ!

いや、時代劇テイスト混じりながらも、こういった梶原節とも言うべき異様な迫真力のある長台詞も健在。
小島剛夕の筆になる、水墨画のような荒々しさと艶めかしさの二刀流(武蔵だけに、とかちょっと上手いこと言ったとか思っていませんよ? えぇ決して……)の作画とガップリ四つに組んでドラマを盛り上げていきます。

そして遂に直接相まみえる二人の外道剣
鬼千代の前に現れた武蔵の姿は……

ハエがたかっていました。

もっとも、このボロをまとった汚い風体は女嫌いの武蔵がわざと女人を遠ざけるためにやっていることなのですが……注目すべきは、『バガボンド』のイケメン武蔵とは似ても似つかぬ渋すぎなルックス。流行のヒゲ男子と言うよりはずばりヒゲオヤジ、おまけに額の生え際が危うい感じです。
ちなみに天正12年(1684年)生まれとされる武蔵、この巌流島決戦のあった慶長17年(1612年)には……なんと若干28歳!? 貫禄あり過ぎだよ!

しかし、そんなアンチイケメンな武蔵を慕う女性が現れます。
その名は、本作のヒロインであるロザリアお吟隠れキリシタンにしてスペインとの混血の美少女です。
斬殺者たる武蔵を、諸人の罪を背負いゴルゴダの丘へ向かう十字架を担いだキリストに重ね合わせ(!)るという電波めいた一目ぼれの一心で長崎から武蔵を追ってきたのでした。

その神秘的な純潔美を一目見た鬼千代は、思わず「美しい……」と口にしてしまうのですが、それに対するお吟のリアクションは……

「ありがとうございます」

このアマ、よくもヌケヌケと!
と、無垢な聖女でなければ言いたくなってしまう自然体っぷりですね。

「汝の敵を愛せよ」の博愛精神の塊である彼女の登場によって、鬼千代の歯車は徐々に狂っていくのでした。武蔵をも超える外道剣開眼のためには、この武蔵を慕う聖女を木っ端微塵に犯し抜くしかない!と己に誓いを立てる鬼千代。
ここに武蔵、お吟、鬼千代の奇妙な三角関係が発生。三者の人間模様が様々なドラマを生み出していきます。

そのロザリアお吟に対する鬼千代の異常な執着、そして武蔵の外道剣と対立する“政治外交剣”柳生宗矩や、鬼千代の新殺法開眼のきっかけとなる南蛮人ヴィスカイノらの登場は次回の項に譲るとしましょう。


だれの心にも武蔵が棲むのか……
あの暗黒が……
無明が……
押せども突けどもゆるがぬ壁が!
酔うてつかの間
見ぬふりなのか



※奈落ハジメ(ならく・-) ゲームシナリオライター。東京在住。酒と美女と漫画を愛する中年男子高校生。


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  1. 2010/08/25(水) 23:47:15|
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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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