大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

劇画(106) 上村一夫 18 岡崎英生 2 「しなの川」

今夜は上村一夫劇画、岡崎英生原作の「しなの川」(少年画報社刊)です。
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連載は1973年から翌年までのヤングコミック。この原作者は後にも上村一夫先生と組んで、既に紹介した「夢師アリス」などの名作を生んでいます。

「しなの川」は画像を見ての通り単行本(73年11月発行)には『1巻』表記があり、物語も途中で掲載誌ではきちんと完結しているというのに2巻は発売される事のないまま絶版となってしまったので、この版だと全1巻。当時付いていた帯はこちら↓です。
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タイトルの『しなの川』とは、もちろん『信濃川』の事であり、冒頭で引用される「越後国風土記」によれば『死難の河』という意味でその名が付いたそうです。
信濃川は新潟県と長野県を流れる日本一長い川ですが、長野県では千曲川と呼ばれているので、今作の舞台は新潟県域のみと考えて良いでしょう。
現に『十日町・中魚地方』と説明されているのですが、ここは私の故郷の隣町だし信濃川はよく眺めてたしで、親しみを持てるのです。あそこが敬愛する上村一夫作品、しかもこんな名作の舞台になっているなんて…誇らしく思います。

そんな信濃川沿いの街を舞台に大正~昭和時代を生きた高野雪絵を描く、上村&岡崎版「女の一生」とでもいうべき大河ロマンです。

大正3年に裕福な越後縮の商家で生まれた雪絵は、次の章で早くも美少女に成長して一五歳。一つ年上の奉行人・朝田竜吉と甘く美しく、そして切ない初恋を経験します。
唇が痛くなるほどキッスしていた二人でしたが、進学のため実家を離れて寄宿学校へ行くため竜吉とはお別れ。髪の毛を一本与えて『捨てた』のです。

新潟県立○○女学校に進学して、次なる雪絵の恋は東京から来た新米教師の沖島雄介
自由な恋愛が認められていなかった時代に、しかも教師と生徒である二人は堂々と二人乗りの自転車で街中を走り回り、一大スキャンダルとなって県下を揺るがすのです。
そして二人は駆け落ちし、刑事に捕まりながらも電車から飛び降りて逃げた雪絵は雄介の元へ駆けつけ、処女を捧げるのですが…
『処女を与えたあとの男は なぜだかひどくつまらぬ男に見える 別れようと思った』
というわけで雄介も捨て、実家に帰りました。

実家には商家の旦那でもある父親がいるのですが、彼は男色家で番頭の出口辰之助とできています。
作中何度かホモ描写も出てきますが、上村一夫作品お得意のタブー描写は続き、半ば狂ってきた父が雪絵を犯します!
その上で自分の父親は母の浮気相手で後に駆落ちした番頭との娘だという出生の秘密を知り、母が棲む島、母が男と逃げた島である佐渡島へ行き、母親と一夜の再会を果たすのです。そして母親は後に寝たきりの恋人と無理心中で死に…
さらに壮絶なのは実家で、潰れかけた店から出て行こうとする辰之助を殺して自宅に火を放つ父。女の着物を着て、舞うように包丁を振りかざしていますよ…。
雪絵の方は今や母親から受け継いだ淫蕩な血をはっきりと自覚し、次なる恋人として泰賢という僧。

雪絵の背負う宿命に不幸色が濃くなってきた所で、この少年画報社版の単行本は終わってしまい、既に書いた通り続巻は発行されなかったのですが…
何と30年以上が経った2005年にK&Bパブリッシャーズから、全3巻の完全版として本のサイズも大きくなって単行本が発売されたのです!
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この2巻の途中からは私の知らない「しなの川」でした。
これはもう、持ってるオリジナル版の古本価値が下がるとかは関係なく嬉しかったです。即座に買ったものですが、何度も読んだ物語の幻の続きですからね、感動しました。
そうか、あれから高野家から追い出された雪絵は長岡-東京間(上越線経由)の電車で泰賢を追っていき、そこで泰賢に裏切られて彼の僧友に犯され、十八歳の誕生日には海に身を投げるのか…

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そして第三巻。まだまだこんなに読んでない部分があったのですね。
不思議な鬼火の発生で海から助けられた美しい雪絵は、次なる男として医師の安西麟太郎と出会い、こいつも問題ある奴でしたがここで始めての結婚をします。
しかし海から助けられて以降続く病魔に蝕まれていて、娘の小夜子を出産しながらも肉体は自らの滅びを知っているからか画学生、秋山耕治との不倫に走った上にまた妊娠して父親の違う子供を生みます。

ここから一気に向かった終章で雪絵は三十五歳。生涯で五人の男と交わったと告白しているので、再婚した秋山以降は誰ともしてないわけですね。
作中では『淫蕩な女』イメージを持たされる雪絵ですが、まぁ現代の日本人からしたら全然そんな事ないのに、どうも悲痛で暗すぎる…ラストが幻だった時代には幸せになる雪絵を想像しないでもなかったのですが、やはり雪絵にハッピーエンドは似合わないか。

初体験をした後に『からだなんてなければいい』、いや『からだも心もなければいい』と思い知らされるシーンがありましたが、一番最初の男であり、肉体関係を結ばなかった竜吉との恋が一番美しい思い出だったのでしょうか。
そう思った矢先でしたが、家族の前から姿を消して信濃川(しなの川)が見える故郷に戻った雪絵は、何と二度と会わないと思われた…現に作中のナレーションで作者もそう書いてたのに、竜吉と出会います!
まさかこんな掟破りのシーンがあったとは。二十年経って再会した竜吉は、革命活動をして殺人容疑で警察に追われていました。しかし彼はあの、二十年前に雪絵から貰った髪の毛を後生大事に持ち歩いていたのです!!

昭和初期という波乱の時代背景も見ものだし、雪絵の子達も幼いうちから犯す過ちだとか衝撃のラストシーンだとか…もちろん上村一夫先生の絵なのでストーリー以外にも見所が随所にあるのですが、それはご自分で読んでもらうとして、今夜はお別れにしましょう。
私も雪の時期にでも、雪絵と同じ故郷に帰って信濃川を見ながら物思いにふけるとします。

最後になりますが、この名作劇画「しなの川」は実写映画化もされています。
それも多くの松本清張作品や、私が一番好きな「八つ墓村」(1977年版)などで知られる野村芳太郎監督の手で!高野雪絵役を演じたのは同じ上村一夫作品の代表作「同棲時代」と同じ由美かおるで、これも少し前までビデオ化すらしていない幻の作品だったのですが、現在はDVD化もしています。原作連載中にされた映画化だったので、物語は途中までしか描かれていないのですが…いい時代になったものですね。

それでは作詞・岡崎英生、唄・高野るいによるレコード「しなの川」。もちろんジャケット画は上村一夫先生が担当した、これを載せてお別れしましょう。
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あの子たちは それぞれたくさんの子孫を作るわ そしてその あたしたちの子孫は
ちょうどあたしたちと同じように 不貞や通姦や裏切りや間違いを繰り返すわ
だってわたしたちの血は 確実にあの子たちに伝わっているのだもの
あの子たちはそれを あの子たちの子供に伝え
その子供たちは またその子供たちに…



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  1. 2010/10/18(月) 23:23:03|
  2. 劇画
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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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