大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

劇画(111) 山口貴由 9 南條範夫 3 「シグルイ」 3

山口貴由作、南條範夫原作の残酷時代劇画「シグルイ」(秋田書店刊)。
2003年からチャンピオンRED連載されていた問題作ですが、2010年9月号でついに完結してしまいました。
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思えば約4年前に、「ココ」「ココ」でこの作品だけ、あまりにも面白いので完結していないにも関わらず特別に紹介したのでした。
あれから単行本も最終の15巻が昨年末に発売されたので、ちゃんと最後まで紹介しましょう。

原作は南條範夫先生による商業誌のデビュー作でもある時代小説「駿河城御前試合」で、オムニバス形式で次々と物語られるこの作品の第一話「無明逆流れ」を、大幅に脚色し直して劇画化したのが「シグルイ」です。
江戸時代初期の寛永6年に駿府城で行なわれた御前試合は、暗君・徳川忠長の命令で真剣を用いる事となり、その殺し合いの最初に出てきた剣士が…
隻腕の藤木源之助と、盲目で跛足の伊良子清玄
本作はこの二人を主人公にして対決や因縁などを描くのですが、物語はそれを描く為に御前試合から7年前、濃尾無双・岩本虎眼の虎眼流道場に遡ります。

初めは道場破りとして現れた伊良子が藤木を破るが、牛股権左衛門師範に追い詰められて降参したのをきっかけに入門し、虎眼流はこの三人で"一虎双龍"と呼ばれる事となるが…
ハンサムな伊良子は町の女達では飽き足らず師匠である虎眼の愛妾いくと密通し、それがバレて仕置きされた上に虎眼の奥義『流れ星』で両目を斬られて盲目となり、いくと共に追放されるのですが、3年後…その状態から『無明逆流れ』を編み出した伊良子による虎眼流への復讐が開始される!

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前に「シグルイ」を紹介したのは、8巻が出たばかりの時でしたが、そのちょっと後に公式完全解説書である「シグルイ奥義秘伝書」も発売されましたね。
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伊良子の復讐は、虎眼流の高弟達に続いてついに道場を襲撃してかつての師匠・虎眼までも斬り殺し、虎眼流を潰してしまいました。
虎眼流を相続した藤木は、遠州掛川仇討場にて伊良子との果たし合いを行う…と、ここまでが↑の8巻まで。
これが「シグルイ」全編を通しても一番多くのページ数を使って白熱する名勝負なのですが、結果はオープニングを読んだ者は全員分かっている通り、紙一重の戦いながら伊良子が制します。

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さらには助太刀に入った、あの恐ろしく強い牛股までもが無明逆流れの餌食に!
…しかし、これは斬られえ頭部を破壊されながらも
『ものを思うは脳ばかりではない 臓器にも記憶は宿る 筋肉とて人を恨むのだ』
という事で、死んでも復活してきた牛股と伊良子の再戦があります。ここで私の学生時代からの愛読書・夢野久作「ドグラ・マグラ」ネタが出てきたのが嬉しかったですが、それ以上にこの牛股ゾンビ登場には驚きました。
しかし伊良子は片足に致命的な傷を負いながらも、再び勝って今度こそ牛股を葬りました。作品のオープニングで伊良子が跛足だったのはこの時の傷が原因になる事が分かるのですが、この後広がった足の指で刀を固定して地面を使わなくても力を溜められるようにパワーアップする、リアリティの無い展開が続きますね。

一方の、伊良子に敗北した藤木源之助。剣名も失った上に、左腕を切り落とされたので傷口縫合手術を受けるのですが、この麻酔の無い時代の手術描写が痛すぎる!
負けながらも生き長らえた藤木、そして虎眼の一人娘・岩本三重は死ぬ覚悟を決めていたのですが、討人仇人が共に生き残った仇討など前例なしとして決着をつけるよう『上意』を受けたため、再戦の日まで屈辱を味わいながら生きる事となった…

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と、ここで原作で言う「無明逆流れ」の話は一休みして、第4試合「がま剣法」屈木頑乃助を中心とした話が開始され、しばらく続く事となります。
確かに少し前から姿は見せていたし、同話に出る舟木道場関係者もかなり前から登場はしていましたが…
藤木源之助対伊良子清玄の戦いをおきざりにしてまで今コレをやるかと、連載中はじれったい思いをしたものです。結局最後まで描かれずに藤木達のエピソードに戻って終わるし!
しかしこれは「シグルイ2」へと続く布石なのだと希望を持って良いのでしょうか。
誤解無きように書いておくと、この頑乃助のエピソードは物凄く面白いし、確かに醜悪な容姿で異形の剣を振るう者と、その歪んだ感情などは山口貴由先生の過去作品を振り返るに大好物なのだと思われます。

他にも原作小説の主要人物が次々登場しては藤木達と関わってきて、藤木源之助が第3試合「峰打ち不殺」の主人公・月岡雪之助と戦う夢の対決が見られますし、同じく第4試合「がま剣法」で頑乃助と戦うもう1人の主人公・笹原修三朗とも戦いますが、何とこれは藤木が負けます!藤木が伊良子清玄以外の者に負けるなど信じられない事でした…
これは後に再戦してやり返し、その時の工夫が御前試合で伊良子との対決する時の布石となりますが。

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徳川忠長の、そして伊良子の秘められた過去も明らかになっていき、伊達政宗まで登場したりして引き伸ばしに引き伸ばして、第1巻のオープニング(駿河城御前試合での藤木対伊良子の再戦)に全然辿りつかないのです。辿りついて決着がついてしまえば作品も終わってしまう、そう思うと複雑な心境でしたが…
それでも御前試合に出場する二十余名の剣士たちが集まり、次の15巻からいよいよ真剣御前試合が開始される!

と思ったら終わりはあっさりしていて、この15巻が「シグルイ」の最終巻となりました。
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しかも半分ほど過ぎてようやくオープニングの御前試合シーンへ辿り着くのですが、ここまで回想シーンにかけた実際の時間が実に7年近く…ただのイチ読者としても感無量ですね。
ここで1巻にさかのぼって読み直してみると、登場人物の顔、つまり絵柄の違いが年月を物語ります。藤木による『怪物め』のセリフが再び聞けますが、伊良子清玄が無明逆流れの構えをするシーン一つ取ってもまず剣の柄部分の長さが全然違うし、違和感が凄いので比べない方が良いかもしれません。

そして、因縁の対決に決着が…
これには連載中、様々な憶測をしてきました。これだけ原作小説を脚色し直して描いてきた劇画が「シグルイ」ですから、二人の勝敗の結果さえも変える冒険があるかもしれない、また原作には無かったハッピーエンドにしてくれないだろうか等々。
一応、ここで結果は書かずにおきましょうか。ただ前回の戦いと打って変わって少ないページ数で描かれたこの最後の戦いは、短いながらも圧倒的なインパクトを残す物で、黒澤明監督が生んだ時代劇の名作映画「椿三十郎」でのラストを飾った三船敏郎仲代達矢の決闘を思い出したほどでした。

「シグルイ」。主人公の藤木源之助が寡黙な設定であるだけが原因でなく作中通して必要以上のセリフを排し、無音のスローモーションシーン多用、これら映画の影響と思われる新しい山口貴由先生の手法が誕生しました。
特に後半は心理描写で読者に理解させる難解な部分が増えてきてるし、過去の作品ではむしろ説明セリフや決めセリフを使っていた山口先生は、前の持ち味を捨ててまで一つ上のステージに昇ったのだと思います。
山口作品のみならず劇画界全体で向こう数十年は名作としてお手本にされる作品でしょう。何とも崇高なエンターテインメント劇画の大傑作が生まれたものです。

キャラクター作りも素晴らしく、師匠である岩本虎眼に忠誠を誓い家を守る事を目標とする藤木源之助に比べ、伊良子清玄の方が反骨心と野心丸出しの人間でした。
むろん武士としては前者タイプが正しいだろうし硬派好きな私は藤木ファンでしたが、最下層の生まれで盲目にされながらも復讐に立ち上がって賎機検校の協力があったとはいえほぼ一人で最強の虎眼流を潰してしまった伊良子こそが、普通は劇画の主人公になるキャラ設定ですよね。
御前試合の直前に『武士も夜鷹も 駿河大納言も当道者も 何も変わりはない』と階級社会を否定する思想をしっかりと持っていて、『虎眼に玉を抜かれた うぬら門弟は 乱心すら出来ぬ傀儡の群れ』とまで藤木や牛股に吐き捨てる伊良子を、どうしても好きにはなれなかったのは…今風に言うとロン毛でイケメンの女たらしだからでしょうか。

同じく南條範夫先生の残酷小説に影響を受けて、同原作「駿河城御前試合」も劇画化しながら、山口貴由先生とは逆に「無明逆流れ」だけは描かなかった大御所の平田弘史先生も『美男子がいろんな女をたぶらかすみたいな話は、俺はあんまり好きじゃないから』との理由でこの第1試合だけ劇画にしなかったのでした。
ただ平田先生は「シグルイ」において題字を書いているので、一応「駿河城御前試合」全試合に関わった事にはなりましたね。
また平田弘史先生の実弟であるとみ新蔵(臣新蔵)先生も南條作品を多々劇画化していて、「駿河城御前試合」からは兄とは逆に、そして山口先生と同じく「無明逆流れ」だけを描いています。

長らく絶版状態だった南條範夫先生の原作「駿河城御前試合」も私は河出文庫で入手していましたが(↓画像左)、やはり「シグルイ」大ヒットの影響でか2005年には徳間文庫より復刻されて誰もが容易に読めるようになりました(↓画像右)。しかもその表紙は山口貴由先生が手がけています!
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他にも連載中にアニメ化し、Tシャツやフィギュアなどの関連商品が発売され…と、血と筋肉に腸出まくり首や手足飛びまくりの残酷作品らしからぬメジャーな人気を得ましたね。
あとは何でしょう…いや「シグルイ」について語りたい部分は多すぎて、しかし例えば絵そのもののカッコいい場所とか挙げていったらキリが無いので、私はこれでもう寝ていいですかね。
とにかく本を持って無い方はすぐに買って、繰り返し何度でも読んで下さい。それで良いでしょう。


三重さま
私は仇討に敗れ 岩本家の屋敷も 虎眼流の剣名も お守りすることができなかった
しかし 三重さまだけは守り申す いかなる嵐にも屈しませぬ



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  1. 2011/02/05(土) 23:08:38|
  2. 劇画
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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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