大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

劇画(113) 山口貴由 10 「悟空道」

今夜は…まだまだある、山口貴由先生の重要作品を紹介しておきましょう。
名作「覚悟のススメ」を描き上げ、それを越える代表作となった「シグルイ」を描き始めるまでの間に当たる1997年から2000年までの期間に週刊少年チャンピオン誌上で連載された、

「悟空道」(秋田書店刊)です。
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タイトルで分かる通り、中国の伝奇小説「西遊記」を下敷きに、大幅な脚色を加えた作品で、単行本は全13巻。

となると登場人物は白馬に乗った三蔵法師玄奘、そして供として従う猪八戒沙悟浄、そして…孫悟空(斉天大聖)
彼らが『ありがたいお経』を貰うため天竺を目指す旅をして、度重なる試練を乗り越えていく物語。

作品世界では、神仙の住む国・神界、人間の住む国・人界、妖魔の住む国・獄界、という三つの国に分かれています。
三蔵は人界を出発して天竺のある神界を目指すのですが、それには恐ろしい獄界を通り抜けなくてはならず…
霊峰・五行山で五百年前から釈迦如来によって幽閉されていた、かつての獄界真王で人外大魔猿、つまりは孫悟空と遭遇するのです。
悟空は三蔵に自由の身にしてもらうと、全てを敵にまわして暴れていた昔と同じ生き方はしたくないと弟子入りを申し出て、獄界の道案内として、そして圧倒的な強さで敵から三蔵を守ります。この悟空は強敵と戦う時は周囲の岩や壁などを肌に取り込んで栄養にして巨大化(逆仏契-ぎゃくぶっちぎり)、そして魔猿に変身するのですが、男の子が大好きな巨大ロボとか出てくるヒーロー物みたいで楽しいですね。出てくる敵も、最初から最後まで魅力的なフリークスだらけで良いし。
見た目はあまり猿っぽくなくて、尻尾も人間より偉くなろうと『根性きめたしっぽづめ』で切っちゃってます。

三蔵法師ですが、日本では有名なテレビドラマで三蔵を夏目雅子や深津絵里が演じたため(設定は男性の役でしたが)、女性だと誤解される事が多いと思いますが、本当は男ですよ!
それがこの「悟空道」では完全に女性として描き、それも凄く美しくてセクシーです。女性である設定にも重要な意味がありました。何度も裸の描写がありますが、その裸体は常に自らを戒めるため『自戒(いましめ)の縄』で全身緊縛しているのです!SMには全然興味無い私が、初めて縛られている女性も美しいと思ったのがこの三蔵。

もちろん忘れてはいけないあと二匹の弟子が沙悟浄と猪八戒。
まず沙悟浄ですが、キザでわりとイケメンな人間風(河童っぽくない)。しかし体が自在に伸びるし頭を潰しても大丈夫と、やはり妖怪ですね。
猪八戒も一見豚っぽくないのですが、顔が凶悪化して口や尻から炎を出す妖怪。「悟空道」はまだギリギリ、コメディの要素も含まれていた時代の山口貴由作品なのですが、それはこいつのおかげによる所が大きいです。

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三蔵法師と孫悟空が出会った五行山は人界と獄界の境の部分だったのですが、獄界を通り抜けるには『獄界七大国』全てを通って行く必要があります。その七つの国、それぞれに王というか強くてフリークな妖魔の支配者(敵キャラ)がいるのです。

大砂漠が続きサボテンの化物が出る流砂界を抜けると、最初は『黙示国』で透孩児という、己の姿が見えない事に苦悩する透明な化物。

次の『不倫国』では艶天大聖 死鳥。自らを不治の美形というナルシストで、五百年前に悟空と戦って金玉を潰された因縁があります。今回の再戦では二人とも山のようにでかくなってスケールの大きいバトルを繰り広げます。

『武器国』はアメリカの西部開拓時代みたいな所で、妖魔達もカウボーイ姿に拳銃で武装しています。ボスは武器王こと紅孩児で、隣りの『精霊国』へも侵攻して乗っ取っています。
精霊国は人間のインディアン風の国で、ここを統率する崇天大聖 酋王は悟空の親友でした。目の前で酋王を殺された悟空は怒り…

何度も人を殺める悟空は破門になって精霊国へ残り、三蔵のお供はイマイチ頼りない弟子だけになりますが、それでも『百鬼国』の黒水河に沈む濡天大聖 犯海をお経と人界からの助けで倒しました。

『滅法国』は日本の時代劇のような所で、今さら侍の刀など怖くなさそうですが…ここの住人は不死身の肉体を持ち、支配者の王殿こと極天大聖 魔鯱の悪口を言っただけで首が伸びて死んでしまう"ろくろ呪い"など、ミステリアスな謎をからめています。
王殿は悟空との一対一の勝負で勝って首を斬り落とす程の強さで…まぁその悟空は複製だったのですが、あと三蔵に自分の子を身籠らせてしまったり、ショッキングな展開が続きますね。

妖魔達が潜む超巨大な河・通天河を渡り、『傲来国』は恐竜やそれ以上に恐ろしい生物のいるジャングルであり、悟空の故郷。悟空を大王とする猿達の縄張りだったのですが、500年経って訪ねたここは『魔羅国』からきた駆天大聖 獅駝王に征服されていました。
三蔵が魔羅国の倒馬毒(さそり)にやられて死にかけているのもあり、急いで獅子の妖魔・獅駝王と対決です。ライオンVSサルの図式であるこの勝負は凄絶を極めますが…
『なるほど てめえの言う通りだ 猿より獅子の方が強えだろうぜ
 だがな 手負いの猿は 獅子より強えだろうぜ』

という事で、悟空の勝利で決着!!

次はようやく獄界最終地『魔羅国』です。
天竺はもう目前ですが、それを囲む様に炎に包まれた火焔山は誰も超えられない獄界最大の難所。そこにいる羅刹女はある理由から悟空を恨み、怨みの攻撃を加えてくるのですが…その炎を鎮める芭蕉扇を借りる事が出来るのか!?
さらに火焔山には、獄界の伝説で悟空でさえびびってしまう斉艶極崇瓢濡暴天大聖 魔王が潜んでいる、と。
要はこの長編のラスボスが魔王。「シグルイ」の牛股権左衛門に角を生やしたような顔の強大な魔王は、単純に強いだけでなく凄い特殊能力も持っているが、果たして三蔵一行は…

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このように次々と舞台が変わりながら強敵が現れて、それを倒して旅してという展開なので「ドラゴンボール」的な(どちらも主人公の名は悟空)、ああいうエンターテイメント色の濃い単純バトル漫画としても楽しめる作品です。
そこに大ゴマとアオリ文字の多用、硬派なキャラによる大仰なキメ台詞、やたらと内臓が飛び散り…と、相変わらずの山口貴由節が満載なのだからたまりません。
直前に同誌で連載してヒットした「覚悟のススメ」のように完成度の高さは求めず、もっと破天荒で勢いと熱いパワーだけで乗り切り、何でも詰め込んじゃってるような感じが魅力的なのです。これも意図してやっているのでしょうか。

↑では簡単に説明しちゃいましたが、端折った悟空の必殺技や相次ぐ三蔵の裸体について、人界の様子や、梟や兎人などのキャラなども良い。で、さらに最大の謎としてはアレ。
仏道一筋で愚直ながらも慈愛に溢れていると思われた三蔵が、獄界を滅ぼすべく人界の帝より送り込まれた美しい僧侶姿の秘密兵器"傾国"で、実は意図して悟空達を操り人形のように手なずけて妖魔殲滅の計略を練っていた…というもの。

それはこの最終13巻で、全て明らかになります。
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大体「西遊記」モノって、日本で漫画化されている物だけでも凄い数あると思いますが、ほとんど天竺まで着かずに終わっちゃうじゃないですか。
(そういえば子供の頃に見た連続テレビドラマは最終回覚えてないし、原典である中国の伝奇小説もどうなって終わるのか…)
少なくとも西遊記漫画で目的地である神界の天竺が描かれないのは、漫画家の誰も自分の眼で見てない天国みたいな光景を描く事の難易度の高さ故かもしれません。しかしそこは山口貴由先生!この「悟空道」ではきっちり天竺を絵で描写し、釈迦も登場してくれますよ。

もう分かってましたが、これは三蔵と悟空の相思相愛物語…宇宙仏契まで見せてくれます。
ラストの大団円まで、しっかり見届けておきましょう。


見やがれ 読み書きできねえこの俺が
死ぬ気で彫った三蔵(ししょう)命
とりかえしのつかねえ躰は こっちの方だ



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  1. 2011/02/20(日) 23:59:00|
  2. 劇画
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
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コメント

堺正章が主演してた西遊記は、最後お釈迦様が空中に出てきて、
「まだまだ道は長いがこれからも頑張りなさいね」的なセリフを言い、

「三蔵法師一行の冒険はこれからも続く!◯◯先生の次回作にご期待ください」
といった、ジャンプ連載打ち切り的な終わり方で幕を閉じてしまうのですよ。

一方原作の小説の方は、ちゃんと天竺に行ってお釈迦様に会います。
しかしその後にどんでん返し、て程でもないけどなオチが。。
  1. 2011/02/27(日) 12:16:53 |
  2. URL |
  3. アヌッサー #-
  4. [ 編集]

天竺

>アヌッサーさん

やっぱり堺正章のドラマはそんな感じでしたか。その後に始まった太川陽介主演の「猿飛佐助」は、バッドエンドとはいえ完結していて良かったですね。ちゃんと観たくなってDVD-BOX「猿飛佐助 -The Jumping Monkey-」まで買っちゃったものです。

原作小説のオチが気になります!多分ちゃんと読む事はないでしょうから、今度教えてくださいよ。
「西遊記」は子供の頃から絵本とか小学生向けに編集された読み物などで好きだったのですが、それらは確か天竺描写が無かったのです。
  1. 2011/03/01(火) 01:14:48 |
  2. URL |
  3. BRUCE #-
  4. [ 編集]

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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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