大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

劇画(116) 谷口ジロー 2 関川夏央 2 「海景酒店」

今夜は谷口ジロー作画、関川夏央原作の「海景酒店」(双葉社刊)です。
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これはまず、私にハードボイルドな男の何たるかを教えてくれた作品だと言えましょう。
1986年に上梓された本なので、発売後すぐに読んでいたら主人公達の生き様・死に様の意味が分からなかったでしょう。まぁ10歳未満で谷口ジロー作品を読む子供もいないでしょうが。
ちょうど大人になりかけの頃に読めたのが幸いで、いやその時も短編集「海景酒店」に出てくる登場人物の行動について理解出来たわけではなかったのですが、ずっと後に日本のハードボイルドと呼ばれる大藪春彦、矢作俊彦、北方謙三らの小説などを読んでから思い出し、再読して少しは理解出来た経緯がありました。

考えてみれば大抵の人は人生の選択肢において、それが正しいか正しくないか、もしくは得か損か、くらいでしか選んでないと思います。しかし私は「海景酒店」を読んだ後の人生では、その選択が『ハードボイルドであるか否か』で選ぶようになりました。
考えてみれば正しいとか正義とかは時代や国などによっても全然違うのだし、得だったかどうかは長い目で見なくては答えが出ません。でもハードボイルドはぶれませんよ。
たとえ叩かれても大損しても、また感傷などで流される事のない強固な信念を貫き、命ばかりを大事にするような軟弱な生き方を否定し、冷静で非情、精神も肉体もタフ…拳銃を突きつけられればジョークを飛ばす、そんな私の姿を見て人は『ハードボイルドな男』と呼びます。
トレンチコートにソフト帽を身に付けていなくても、タバコも吸わないのに…「カサブランカ」「三つ数えろ」などにおけるボギーを連想されているようですね。そうなったのも全ては「海景酒店」で始まり、他の谷口ジロー作品も読んだ上で受けた影響なのです。

さらにここで原作を手がけた関川夏央先生は、谷口ジロー先生とはお互いの代表作にもなった「事件屋稼業」や他にも多数の作品で組んでいますが、ハードボイルド漫画の原作者として活躍した後にかつて劇画で使った話を小説化した連作「「名探偵」に名前はいらない」がこれまた傑作!
ノンフィクション作家・評論家としての活動も評価が高い、この方の頭脳は驚くばかりですが…

さて「海景酒店」
1980年代初頭から中頃にかけて発表した作品を収録した短編集になっているので、簡単に個々の作品を見ていきましょう。

まずは「グッドラックシティ」
これがいろんな部分で若かりし私に衝撃を与えてくれたのですが、この作品だけオールカラーであり、話の説明はさておきこの実験的な手法だけ紹介しておくと、素晴らしく上手過ぎる画がほとんど縦割りコマで、ページの下にナレーションやセリフが入るスタイルで続くのです。
考えてみればセリフの吹き出しで劇画のいずれかの部分が隠れてしまうわけで、この手法なら谷口ジロー先生の絵を余す事無く堪能出来ますね。
とはいえ当時の『様々な事情』により未完成のまま連載打ち切りになったようです。圧倒的にカッコいい事は確かなので、もうちょっと続けてみれば従来の劇画には無いスタイルを確立出来たのかもと、残念に思います。

次に表題作の「海景酒店」
舞台は香港。海景酒店に泊まっては毎日娼婦を呼んで酒びたりの男の前に、ある女殺し屋が訪れて…
拳銃の弾の描き方などカッコいいのですが、話のオチも味わい深い。

「迷子通りのレストラン」は、娘を無残な殺され方したバーテンダーが、ド変態の外交官である犯人をベネズエラまで追って復讐を果たす話。単純な話の随所に痺れるポイントがあります。ラスト数ページはカラーページになり、傑作映画のよう。

「つかの間の恋」はパリが舞台で、かつて凄腕の殺し屋だった男が主人公。冒頭で、帰って来た彼を若手殺し屋が狙うもあっさり返り討ちにされる無言劇がいきなり天才的。
その男を殺す役目を引き受けたのは、昔に彼とたった一週間だけの恋した経験を持つ女殺し屋で、彼女のこだわりは…
ラスト1ページの顔アップも意味深です。

最後にアラン・ソーモンというフランス人が原作で、関川夏央先生は訳・潤色して外国人の視点から日本のヤクザ社会を見た作品「東京式殺人」を収録しています。

この本に収録された谷口作品はどれも、例えば「事件屋稼業」に見られるようなユーモアの部分を排した、シリアスで哀しい作品ばかりが収録されています。ハードボイルドである!


ガンだって このひと 痛みに負ける前に……
むかしの粋なギャングたちのように 香港のホテルバーで射たれて死にたいって
だからセリフも決めてあって……



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  1. 2011/04/22(金) 23:59:12|
  2. 劇画
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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

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