大悟への道 (旧名・名作漫画ブルース)

名作漫画の紹介 ・・・個人的な旅の記録

劇画(120) 谷口ジロー 6 「犬を飼う」

今まで紹介してきた作品だけでも、谷口ジロー先生が幅広いジャンルで一級品の作品を描き続けて活躍してきた事は分かると思いますが、その中でも『エッセイ漫画』の代表作であり、それらを描くきっかけとなった作品(初ではありませんが)…
「犬を飼う」(小学館刊)。
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連続した4編の連作短編と独立した1編を収録した短編集で、掲載誌は全てビッグコミック。時期は1991年から翌年までの物です。

まずは表題作「犬を飼う」ですが、何度も何度も読んでいる私は1ページ目から涙腺がウルウルしてくる泣きの傑作。
人間の主人公は。当然谷口ジロー先生自身で、あとはその。この夫婦が舞台となる町へ14年前に越してきた時から飼われているのが、テリアと柴の雑種犬・タムタム(タム)というオス犬。
もう老犬となったタムの、最後の9ヶ月あまりを描いているのです。衰える一方のタムに愛情持って接する夫婦は、明らかに死期を迎えていながらも最期まで生きようと頑張るタムの姿に何を思う…

夫婦はタムが子犬だった頃、元気だった頃を思い出したりもしますが、現実に目の前にいるのは寝たきりとなって排泄物をたれ流し、痩せこけて床ずれやけいれんも起こしていて、でもまだ生きようとするタム。
様々な表現や描写が上手いのは谷口ジロー作品にあってはいつもの事ですが、ここまでのリアリズムは実体験を漫画にしたエッセイだからモノに出来た事でしょう。

あまりにも切ない…ここまでの名作だと犬を飼った事のない人にもリアルに想像させて泣かされるでしょうが、私も実家で子犬から育て、やがて自分より年上になって衰えて、ついには死んで行った犬がいるのだからますますたまらず号泣です。
雪国の室外犬という厳しい環境の中で、タムよりも2年以上長く生きましたよ。毎日散歩する係だったのに学校を卒業した私は田舎を嫌って故郷を出て、それでもたまに帰省すると喜んで飛びついてきてくれた愛犬。死にかけてると知った時にも帰省したのですが、正にタムの最後と同じ…いやもっと酷い状態でした。なのに私は地元の友人に誘われて呑みに出かけて、その間に死んでしまったために最後を看取れなかった。この罪悪感は、良き思い出と共に今も私を苦しめている事を懺悔します。

ラストで夫婦は
『たかが犬一匹………しかし、なくしたものが これほど大きなものだとは思わなかった。
 そしてタムの死が 私たちに残してくれたもの……それは、さらに大きく大切なものだった。』

そう思う。
犬を通してながら、人間にも必ず来る"老い"や"死"というモノをここまで考えさせる作品は少ないでしょう。小学館漫画賞受賞作です。


2話目になる「そして…猫を飼う」
これはもうタイトル通りなのですが、タムタムを看取ったあの夫婦が1年後にペルシャ猫・ボロを飼う事になり、そのボロは妊娠していたため子猫が三匹生まれて…という話で、
続く「庭のながめ」は母猫となったボロと三匹の仔猫と過ごす日常を描いていて、「犬を飼う」とは逆に新たに誕生した命の話なのでほのぼのと読めて、単行本としてのバランスも良くなっています。しかもちょっとつげ義春先生の名作「李さん一家」を思わせるラストなのだから嬉しい!

4話目の「三人の日々」は、今は猫を飼う夫婦の家へ『えへへへ。来ちゃった。』と突然訪ねてきた妻の姪っ子・秋子、中学一年生。
今まで子供がいない中で動物を飼って生きてきた二人が、今度は短期間ながら人間を飼う…いや同居する事となるわけですが、
『12歳ー何を考えているのか私たちにはさっぱりわからない年代である。まだ動物たちの方がずっと気が楽だ。』
などと感じてますよ。そして、秋子も少し大人になる。

最後の「約束の地」だけがここまでの話と関係ないのですが、これは遠崎史朗原作の「K(ケイ)」を以前にモノにしていたし、そして後に夢枕獏原作の「神々の山嶺」を描く事でも分かる通り谷口ジロー先生の得意ジャンルの一つとなる『山岳・登山漫画』。個人的には山の男が主人公だけど登る対象はビルの…「捜索者」も相当好きです。
「約束の地」はヒマラヤのアンナプルナ連峰・8000メートル級の巨峰に始まります。ここでかつて仲間を亡くし、自身は美しい獣・ユキヒョウによって雪山から生還した岡本が、山を降りて家族のために地上で生活するが…動物園の檻の中に入っているユキヒョウに今の自分の姿を重ね、40歳にしてまた山へ挑む話。短い中でしっかり語りかける構成にて感動させてくれます。


おまえ…いつまで生きてるつもりなんだろねえ。
早く死んであげなきゃだめじゃないかね。
おまえ……わかるだろ?あたしもさ、早くいっちまいたいんだよね。
楽しいことなんか なんにもありゃしない。
あたしゃね、迷惑かけたくないんだよ……
このこだってそう思ってる。そう思ってるんだよ。
でもね、死ねないんだよ……なかなかね……死ねないもんだよ.
思うようにはね……なかなかいかないもんだね。



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  1. 2011/05/03(火) 23:44:37|
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BRUCEです。あだ名は大悟(DieGo)です。
大悟…つまり悟りを開くに至る道程にある事を表し、かつ神の映画「ドラゴンへの道」から頂いてのブログタイトル。同名の秘密結社も運営しています。

名作漫画紹介の形を借りて、自分の記録用に使っています。

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